西日本新聞社健康保険組合

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ニュースとお知らせ

[2021/12/06] 
嘱託医の独り言1~3

世の中にはいろいろな情報があふれています。そのなかには本当のような嘘や、嘘のような本当の話がたくさんあります。真偽がハッキリとしているものは意外と少ないのですが、その中で、エビデンス(理論的根拠)が得られていなくても理論上、可能性が高いと思われるものを、嘱託医の独り言として述べてみようと思います。

 

筆者プロフィール:冨松敦之(とみまつ・あつゆき)医師、1967(昭和42)年23日生。2021(令和3)年4月より西日本新聞社健保組合嘱託医。産業医科大学放射線科出身、安全衛生コンサルタント、複数の企業で産業医を務めている。

 

 

嘱託医の独り言3

「インフルエンザの謎」

今年もインフルエンザの季節が近づいてきました。2020年はインフルエンザの流行がありませんでした。福岡県の患者数は20-30人と例年の1/100以下でした。今年はどうなるのでしょうか。このことを予測するのに、実はインフルエンザの謎解きが大きな鍵を握ります。

インフルエンザの謎、それは日本で、夏にインフルエンザウイルスがどこにいるかです。これについてはいくつかの仮説が考えられます。渡り鳥が運んでおり、シベリアで増殖している説(インフルエンザウイルスは鳥の腸内ウイルスが起源とされています)。

北半球が夏の時は南半球が冬であり、南半球で流行していることから、人により、赤道を越えて移動している説等でした。どれも証明がされていませんでしたが、2019年以降の流行の経過を見るとある程度の傍証が出てきます。

2019年は日本では珍しく9月から10月に一時的な流行が特定の地域に見られました。この特定の地域にはある共通項がありました。ラグビーワールドカップの試合会場がありました。ラグビーは南半球にも強豪国が多く、当然サポーターも南半球から大勢来日しました。このことから流行地からの人流がインフルエンザの越夏を助け、北半球と南半球を往来していることが強く示唆されました。そして2020年はコロナの影響で赤道を越える海外渡航が極端に減少したことから、2020年の冬期はインフルエンザの流行がなかったと考えられます。

このことを踏まえて考えると、コロナ対策で海外渡航の自粛が継続している限り、今年度もインフルエンザの流行はないと予測されます。しかし、ワクチン接種が進み、海外渡航が再開されてきますと、感染対策も緩くなり、大流行となる可能性があります。

時期としては、例年であれば、インフルエンザの流行は最低気温が10度を下回ると感染が目立ち始め、最高気温が10度を下回ると流行が始まるという傾向がありますが、今年の流行については気温の影響と人流の影響を加味して対応を考える必要があります。

今後の予測となりますが、年明け、特に旧正月前後に、人流が活発となる可能性が高く、例年では12月20日前後から正月にかけて流行が始まるのに対し2月中旬から3月下旬にかけて流行が始まるのではと予想されます。そして流行が始まると昨年流行がなかったことから、インフルエンザに対する免疫力が低下していると考えられるため、大流行が起こる可能性があります。そのため、インフルエンザワクチンの接種は少し遅めの11月下旬から12月に接種しておくことが望ましいと考えます。

冨松敦之・西日本新聞社健保組合嘱託医(2021年11月)

 

 

嘱託医の独り言2

「ワクチンとマスク」

新型コロナについて真偽不明の情報があふれています。中にはアメリカで言われているからと鵜呑みにされているガセネタもあるようです。アメリカではマスクをしたくないからとワクチンを接種し、マスクをせずに外出する方が多いようです。本当にワクチンを打てばマスクはいらないのでしょうか?マスクの効果、ワクチンの効果、そのメカニズム、集団防疫の概念。それらを元にすると確度の高い仮説が考えられます。

まずは集団防疫の概念を簡単にまとめましょう。集団で見た場合、感染症予防の方法は大きく分けると個人の感染防御とウイルスの拡散防止に分かれます。前者は個人の体内に入ってくるウイルスを減らす、または感染を予防することになります。後者は感染者が拡散するウイルスを減らすことが目的となります。このことを踏まえて、マスクの有効性を検討するとマスク使用の目的は見えてきます。

マスクの効果についてはスーパーコンピュータ富岳を用いたシミュレーションやマウスを用いた実験にてある程度のデータがあります。それらによれば、マスクは感染防御の効果としては1/2から1/4程度ですが、拡散防止の効果としてはリスクを1/10以下になることが知られています。つまり、マスクは人からうつされないためにではなく、人にうつさないためにするものなのです。ウイルスを絶対持っていなければマスクをする必要はないが、絶対といえない以上マスクが必要となるのです。

では、ワクチンを打っていればウイルスを絶対持っていないといえるでしょうか。

これはウイルスの感染のメカニズムとワクチンの効果のメカニズムを理解することで、予測可能になります。

ウイルスは飛沫や浮遊粉塵、経口などの経路で体内に入ってきます。この入ってくる課程を暴露といいます。体内に入ってきたウイルスは細胞内で増殖します。一定量まで増殖し、継続的に増殖が行われている状態が感染となります。感染が成立すると他人にうつす可能性が出てきます。そして、ウイルスが侵入した細胞が増加していき、様々な症状が生じる。これが、発症ということになります。そして、さらに増加すると重症化となります。

次にワクチンの効果ですが、人が免疫を取得すると、ウイルス感染の各段階に効果が出ます。その順番は免疫のメカニズムから、重症化、発症予防、感染防止の順番になると考えられます。このことから、ワクチン接種が進むと、当然感染者数も減りますが、それ以上に発症者数が減少し、感染者に占める未発症者の比率は増えることが予測されます。つまり、感染時の発症率の高いデルタ株ほど、ワクチン接種者の方が、未接種者よりも未発症感染者(不顕性感染者)が多いということになります。

つまり、ワクチン接種が進めば進むほど、感染に気づいていない人たちが増え、感染を広げる可能性が高いということになり、感染の拡大を防ぐためにマスク着用が有効となるのです。

ワクチンは自分が発症しないためであり、次に感染しないためです。

マスクは人にうつさないためで、次に自分が感染しないためにするものです。目的が異なる以上、この二つは併用してこそ、効果が高まるのです。

冨松敦之・西日本新聞社健保組合嘱託医(2021年10月)

 

 

嘱託医の独り言1

「コロナワクチンの副反応」

新型コロナワクチンの副反応について真偽不明の情報があふれていますが、メッセンジャーRNA(ウイルスの目印の設計図コピー情報)を脂質などの粒子でくるんだ製剤として使用していること、免疫のメカニズムなどを元に考えると、いくつかの確度の高い仮説が考えられます。

これまでのワクチンは抗原を一定量体内に投与することで免疫を獲得させるものでした。新型のワクチンは体内で、抗原を持続的に産生させるため、①多くの抗原が体内に入るほど副反応が強く出る、②個人差が大きいことが予測されます。また、接種後の抗体価は男性より女性が高く、高齢者より若年者が高いことから、副反応が強い順に若年女性、若年男性、高齢女性、高齢男性となることも十分予測できます。(実際の報告も概ねこの結果となっています。)

では、副反応を抑える仮説はどのように組み立てられるでしょうか、

副反応は免疫反応、つまり、炎症反応によって起こるものですから強い副反応を起こすほど強い免疫が得られます。従って副反応を強く抑えることは免疫の獲得が十分に得られない可能性があります。従って解熱剤の事前投与は私個人としては推奨できません。

風説の一つに、経口補水液を事前に多量に飲むと良い、というものがありますがこれはどうでしょうか。免疫反応により体内の水分が消費され、脱水が起こり、その症状として発熱が起こるため、脱水を補正することで、熱発を改善することは十分に期待できます。しかし、事前に経口補水液を飲んでも余剰の水は尿で排泄されるため、実はあまり効果を期待できません。

前日に飲むのはお茶や水でよく、尿の色が薄くなる程度で十分です。接種後、免疫反応が起こってから、経口補水液を飲むのが正しいと考えます。経口補水液のメリットは吸収速度が速いことなので、症状の出始めで十分間に合います。私は接種後2-3時間で1本。眠る前または体温が36.8-37度になった際に1/2本を飲み、翌日も朝1本の摂取として、2度の接種ともに37.2度以下にコントロール出来ました。飲むタイミングとして、経口補水液を口に含んだ際に飲みやすいと感じたときはしっかり飲むというのがわかりやすいでしょう。

次に接種部位の痛みですが、これは筋肉に直接投与するため、筋肉や筋膜の炎症に伴う痛みです。当然これも抑えすぎると免疫がつきにくくなるので、自発痛がなく、軽い運動痛または張り程度にコントロールすることが望ましいと考えます。筋肉の炎症についての対策は接種部位の冷却が一番有効ですが、先ほど述べたように冷やしすぎるのも問題です。私は気化熱を利用する冷感タオル、冷えピタを使用しましたがこのぐらいがちょうど良いようで、自発痛はなく翌日の軽い運動痛程度でした。これらの手法で、自発痛が収まらない場合や37.537.5度以上に発熱する場合、解熱鎮痛剤の服用をおすすめします。

冨松敦之・西日本新聞社健保組合嘱託医(2021年9月)

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